9月議会の文教民生委員会の中で、僕は老人保護措置事業に着目した。大きな費用をかけているわりに、それほど高齢者の福祉に結び付いないのではないか、と思ったからである。議会での質疑も踏まえて、少し整理してみた。
9千万円の事業を自治体単独予算で行っている
老人保護措置事業は、身寄りがなく自宅での生活が困難な高齢者を養護老人ホームに入所させる事業である。本市では毎年9千万円前後の事業費が使われている。利用者負担は1割で、残りは市の自主財源。とても大きな額だ。この事業はもともと国と県の補助があったが、介護保険の導入時に制度に組み込まれず、自治体単独の事業となった。措置件数が地方交付税の算定基準になっているそうだが、それでも自治体の負担が非常に大きい。
朝来市の措置率は高い
現在の措置者数は37名。本市には養護老人ホームが存在しない。近隣自治体の施設に入所することになる。全国老人福祉施設協議会の調査(令和元年度)によると、自治体当たりの措置率(65歳以上人口のうちの措置者数の割合)は養護老人ホームが所在する自治体では2.44‰。養護老人ホームが所在しない自治体では1.04‰。というように大きな差があるという。朝来市の措置率は概算すると約3.5‰(37/10,400)であるから、この事業にまじめに取り組んでいると評価できるのではないだろうか。
措置は高齢者の福祉につながるか
しかしながら、本市では近年、相談件数は増えている一方で、新規措置件数は横ばいである。措置が難しくなっているのではないかという懸念もある。すべての高齢者市民に対して、憲法で保障された健康で文化的な最低限度の生活を提供する責務が自治体にはある。その一方で、住み慣れた故郷を離れて、急に他の自治体の施設に入所するということが果たして本人の福祉につながるかという疑問もある。
生活保護+施設入所という選択肢
そこで頻繁に議論されるのが、老人措置事業と生活保護との関係である。措置となった場合、養護老人ホーム以外の選択肢はない。一方、生活保護であれば、介護保険制度の施設も選択できる。生活保護者も介護保険に加入するが、その保険料は生活扶助費として給付される。選択肢として考えられるのは軽費老人ホーム(ケアハウス)である。近年、措置が必要な高齢者に対して生活保護を受けさせて放っておくいわゆる「措置控え」が問題になっているが、きちんと老人ホームの入居まで自治体が面倒を見るのであれば、それは当事者の福祉につながるのではないか、と僕は思う。
養護老人ホームの意義
もちろん、生活保護+施設入所の課題もある。第1に、老人ホームの空きがあるか、という問題である。市内の介護保険の福祉施設はそれほど空きがあるわけではないから、生活保護を受けてすぐに施設入所ができるとは限らない。順番待ちをする必要があるときに、本人にその余裕があるかどうかが課題である。第2に、虐待等の理由で措置が必要になるときである。そのようなときは、むしろ市外の養護老人ホームに措置をしたほうがよいと思われる。
まだまだ勉強が必要
ここまで考えてきたが、まだまだ研究が必要である。
- 当事者の声や養護老人ホームの実態について
- 介護保険制度が創設の際の議論について
- 高齢者の生活保護について
といったところについて勉強をして、適切な提案をしたい。