この日の議運では藤本議員から提出された文書質問を許可するか否かについての意見交換が行われた。藤本議員は給食センターでの地産地消の推進や、それに関するハラスメント問題について市長に質問しようとしている。議長はこの質問が適切ではないとして、議運の意見を求めた。各委員からの意見が述べられた、最終的には議長の判断に委ねられる。傍聴者としてのメモ。
一般質問・文書質問・緊急質問
質問については地方自治法の規定は存在しない。朝来市では一般質問・文書質問・緊急質問の3種類ができることになっている。ここでは本件に関係のある一般質問と文書質問について前提を確認しておく。
一般質問
議員は、市の一般事務について、議長の許可を得て質問することができる。
2 質問者は、議長の定めた期間内に、議長にその要旨を文書で通告しなければならない。
朝来市会議規則 第62条
一般質問に関する規定は案外あっさりしていて、こんなものである。
文書質問
文書質問は一般質問ほど頻発されるわけではないが、ちらほらと行われる。僕もしたことがある。議員個人の調査について、しっかり文書で確認してしたいときや、逆に込み入った調査事項なんかについては当局から文書で聞いてくれと言われる時もある。
議員は、会期中又は閉会中にかかわらず、議長を経由して市長等に対し文書質問を行うことができる。この場合において、議長は、市長等に文書により回答を求めるものとする。
朝来市議会基本条例 第7条4項
これとは別に、「文書質問に関する規則」が設けられている。
議員は、市の一般事務に関し、一般質問に準じて文書質問をすることができる。
2 議員は、文書質問をしようとするときは、質問する事項及び具体的な内容を記載した通告書を議長に提出しなければならない。
朝来市 文書質問に関する規則 第2条
さらに、今日の議運が開かれた根拠となる規定が書かれている。
議長は、通告書に記載された事項又は内容が適切でないと認めるときは、議会運営委員会の意見を聴いて、通告した議員に当該通告書を補正させ又は撤回させることができる。
朝来市 文書質問に関する規則 第4条
議長は藤本議員の質問内容が適切でないと認めたため、議会運営委員会に諮った、というのが今日である。
藤本議員は一般質問も提出していた
今日の議運で明らかになったが、藤本議員は今回の議会で一般質問も提出していたようだ。横尾議員から「藤本議員の一般質問が却下された。一般事務ではないという理由で。それに対して抗議文を出している。」という発言があった。
つまり経緯としては以下のようだ。
- 藤本議員は一般質問を提出した → 議長は適切でないと判断した → 却下となった
- 藤本議員はほぼ同じ内容の文書質問を提出した → 議長はやはり内容が適切でないと判断 → 議運の意見を聞くことになった
一般質問の不受理はブラックボックス化する
ちょっと僕がここで気になったのは、議運の委員ですら一般質問の不受理を知らなかったことである。当然僕たち一議員にも知らされていなかった。一般質問は全員がするわけではない。質問項目に名前があがってなくても、今回は休むのかな、くらいに思う。文書質問と異なり、一般質問は議長一人の判断でその可否を決める。議運の意見を求めることはしない。だから議運も知らない。この差異はなんだろうか?また、質問が不受理となった時に、それをどこにも公表しないというのは議会の透明性という点で問題があると僕は考える。
文書質問に関する論点
今日の議運での文書質問に関しては、主に2点について意見が分かれたと思う。一つはそもそも大前提として「意見を聴く」というもののゴールは何か?2点目は、この文書質問の内容は適切なのか、という本筋の話。
文書質問の意見聴取とは何か?
この規則4条に基づく意見聴取の位置付けについて議論があった。委員長はあくまで参考までに議運各委員の意見を聴く、採決などはせずに最終判断は議長だ、ということでそのようになった。一方で委員からは「委員会の意見」というのは「委員の意見」とは異なる、議運しての意見をまとめて議長に届けるべき、という見解もあった。結論としては委員長の判断で正しかったように僕は思う。
規則4条は改正されている
というのも、4条の意見聴取には経緯がある。令和元年10月23日に規則が改正され、この意見聴取というものが規定に加わっている。当日の議運資料によれば、以下の通りである。
議長は、通告書に記載された事項又は内容が適切でないと認めるときは、通告した議員に当該通告書を補正させ又は撤回させることができる。
改正前第4条
議長は、通告書に記載された事項又は内容が適切でないと認めるときは、議会運営委員会の意見を聞いて、通告した議員に当該通告書を補正させ又は撤回させることができる。
改正後第4条
なぜこのような改正が行われたか。当日の議運の議事録を読むと、鈴木委員長(当時)は次のように説明している。
4条のところで通告書の補正または撤回のところに関して、なかなか議長の判断では議長がそう思っても言いにくいと。議員本人には言いにくいということで、議長が思った時には、議会運営委員会の意見を聞いてということで、議会運営委員会の意見もこうだったということで、当該委員にこうした方がいいんじゃないですかということを伝えるという意味で、…
令和1年10月23日議会運営委員会議事録
一応委員会の意見を聞いて補正撤回させることができるということに改善すれば、できるだけスムーズな運用に近づくのではないかと思って、そういう提案をさせてもらっている
同上
ということで、改正の趣旨を辿れば、議運の意見は参考までに聴くということで正しそうだ。とはいえ、やはり「委員会の意見を聴いて」という表現は例規上、通常使わない表現のように僕は思うし、実際に曖昧さがあると思う。
さらに、一般質問とのバランスも僕は懸念する。文書質問でそのような問題があるとすれば、一般質問でもなおさら同様の問題があるのではないか。議長一人で受理不受理を判断するのは悩むような場面は無いのだろうか?ちょっとそこまでの経緯は調べていない。
一般事務とは何か?
本論に入ろう。議長が文書質問を不適切と判断した理由は、その大部分が一般事務に当たらないためである。一般事務とは何か?明確な基準はない。そこで議長および各委員は、自身の一般事務の物差しをもとに、7項目にわたる質問項目について、各項目が一般事務に当たるかどうか意見を述べた。議長も全部が全部ダメとは言っていない。例えば給食の地産地消を進めるべきではないか?という項目についてはOK。でも例えば、特定議員のパワハラ発言に対して市長は抗議すべきだったのではないか、という項目についてはNG。こういったことは議員個人に関することで一般事務とは言えない。
朝来市議会として一般事務についての明確な定義が無い以上、最終的にはその時の議長が自身の物差しで判断すれば良いことかなと僕は思う。でも気になるので、僕なりに一般事務とは何かについて確認をしておこう。
職務であれば一般事務
上記が、結論として僕なりにわかりやすい基準かなと思った。まず、地方自治法では次のように規定している。
普通地方公共団体は、地域における事務及びその他の事務で法律又はこれに基づく政令により処理することとされるものを処理する。
地方自治法 第2条②
ここに書いてあることが「一般事務」であるというのは異論の余地が無いと思う。これに関して、いくつかの注釈がある。
普通地方公共団体が一定の行政区域内において行政権能を担う統治団体であり、住民福祉の向上を目的として、統治の作用としての事務一般を広く処理する機能を有することを明らかにする
松本英昭[著] 逐条地方自治法第9版 38ページ
「地域における事務」とは、地域の利害にかかわる公共的事務のうち、地方公共団体が自主的判断で企画・制度化して、実施することのできる事務をいう。この中には、狭義の「地域における行政」のほかに地方議会または長その他の執行機関による立法活動も含まれる。
村上順[他編] 新基本法コメンタール 地方自治法 22ページ
なので、狭義には、自治体が住民サービスとして行なっている事務が一般事務として解釈することもできるだろう。一方、広義にはそれを実現するために行われる活動も含まれると解釈できる。しかし、その線引きって正直難しく無いだろうか。僕はここは単純に、朝来市職員が職務として行なっている活動は全て一般事務、という線引きが一番単純明快かなと思うので提案したい。というのも事務には全てそれを行う職員がついてくるだろうし、公務員の仕事は比較的厳密に決まっている。したがって「朝来市職員が職務として行なったこと全て」と「市の一般事務全て」は一致するように思う。
パワハラ対応は一般事務か?
この基準をパワハラ対応に適用してみよう。藤本議員の質問項目では、「(議会の委員会に)出席した職員に対して特定の委員から、一方的な追及や不適切なパワハラとも取れる発言が行われていますが、職員からの訴えは市長の元にはなかったでしょうか。」とある。これは一般事務に関する質問だろうか?
横尾委員から指摘があったが、パワハラに対しては市役所内に規定がある。
所属長は、職員がその能力を十分に発揮できる職場環境を確保するため、ハラスメントの防止及び排除に努めるとともに、ハラスメントに起因する問題が生じた場合においては、必要な措置を迅速かつ適切に講じるものとする。
朝来市職員のハラスメント防止に関する規定(H29 訓令31号)第3条2項
規定に基づいて市長なりが対応するとすれば、それは職務である。職務であれば、一般事務である。したがって質問は適切である。
パワハラ対応は一般質問をされている
以下のように、ハラスメントに関する一般質問は朝来市議会でもされている。
4(1)他の自治体において、職員が管理職へならない、女性職員が管理職へ就かない一つの要因として、議会対応が大変であること、ハラスメント的なものを感じる等のことが言われているが、本市ではそのよう なことはないか。
嵯峨山議員 R5/9一般質問
1 (5) 市長がハラスメントの定義をどの様に理解されていますか。
尾﨑議員 R5/12一般質問
(6) アンケートの実施を踏み切らざるを得なかった思いについて述べていただけますか
(7) ハラスメントは市職員の日常業務にどの様な影響を及ぼしていますか。
(8) 朝来市職員のハラスメント防止に関する規程が制定されてますが今までに相談されたケースはありますか。
問題は書き振り
では、藤本議員の質問に問題がないかというと、僕は問題があると思う。それは書き振りである。質問項目には、
- 「パワーハラスメントではないかと思われる発言」
- 「まさに妄想とでっち上げた犯罪行為を裏付けようと誘導尋問しているような内容」
- 「私はまるで犯罪者の様に扱われていました」
- 「一方的な追求や不適切なパワハラとも取れる発言が行われていますが」
といった、主観的で扇動的な項目が目立つ。こういったところが、実際には不適切だと判断される要因なのかなと思う。しかし、現在の規則上は、こう言った書き振りに関しては何の制約もない。したがって内容的に一般事務に関するものであれば、それは通すほかないのかなあ。どうなのだろうか。